解禁前に知りたい!もうすぐ始まる「給与デジタル払い」について解説します

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2022年9月13日に行われた第178回労働政策審議会労働条件分科会において、厚生労働省はデジタルマネーによる給与の振込「給与デジタル払い」の制度設計案を提示しました。

今後注目が必要な「給与デジタル払い」について、概要とメリット・デメリットを解説します。

「給与デジタル払い」とは?

給与デジタル払いとは、銀行口座への振込ではなく、電子マネー等を利用した給与の支払い・受け取りを指します。2017年に東京都等が、銀行口座の開設が難しい外国人労働者向けに規制緩和を求めたことにより議論が始まりました。その後2019年6月、内閣は成長戦略の一環として、「労使団体と協議の上、できるだけ早期に制度化を図る」と閣議決定し、現在に至ります。

給与デジタル払いで利用する資金移動業者(PayPayやLINE Payなど、送金・決済サービスを提供する事業者)は、以下の要件を満たす必要があります。

(指定の要件)

  1. 破産等により資金移動業者の債務の履行が困難となったときに、労働者に対して負担する債務を速やかに労働者に保証する仕組みを有していること。
  2. 労働者に対して負担する債務について、当該労働者の意に反する不正な為替取引その他の当該労働者の責めに帰すことができない理由により当該労働者に損失が生じたときに、当該損失を補償する仕組みを有していること。
  3. 現金自動支払機(ATM)を利用すること等により口座への資金移動に係る額(1円単位)の受取ができ、かつ、少なくとも毎月1回は手数料を負担することなく受取ができること。また、口座への資金移動が1円単位でできること。
  4. 賃金の支払に関する業務の実施状況及び財務状況を適時に厚生労働大臣に報告できる体制を有すること。
  5. ①~④のほか、賃金の支払に関する業務を適正かつ確実に行うことができる技術的能力を有し、かつ、十分な社会的信用を有すること。

(厚生労働省HP:第178回労働政策審議会労働条件分科会(資料)参照)

尚、事業主が労働者へ給与デジタル払いを行うには、労働者本人や、その代表である労働組合と協定を結ぶ必要があります。労働者の同意なく給与デジタル場合を行った場合は、労働基準監督署より指導が入ります。

従業員からの需要は?

まず、資金移動業の利用状況、及びコード決済の取引件数に関しては下記の通りとなります。

厚生労働省の「年間取扱額及び年間送金件数の推移(資金移動業の利用状況等)」の表によると、2020年度で10億600万件という件数が取引されており、その金額は4兆2,555億円に上ります。

また、「コード決済の月間アクティブユーザー数(月に1回以上コード決済での支払を行った方)の推移」では、2022年は平均約5,000人が月に1回以上、コード決済を利用していることが示されています。

ここから、コード決済は一定数に認知・利用されている送金方法であることが確認できます。

(厚生労働省HP:第178回労働政策審議会労働条件分科会(資料)引用)

また、紀尾井町戦略研究所株式会社が行った給与デジタル払いについてのWeb調査では、「利用したい」と回答した方は26.9%ですが、「分からない」と回答した32.4%の方が、今後の対応を参考に、考えが変わる可能性は十分に想定されます。

さらに、公正取引委員会による「QRコード等を用いたキャッシュレス決済に関する実態調査報告書」(2020年4月21日)では、自身が利用するコード決済サービスのアカウントに賃金の一部を振り込むことについて、「検討する」が39.9%、「検討しない」が60.2%というアンケート結果が出ています。
この結果からも、一定のニーズが見込まれていることが明らかです。

厚生労働省HP:第178回労働政策審議会労働条件分科会(資料)
公正取引委員会「QRコード等を用いたキャッシュレス決済に関する実態調査報告書」より引用

法律の壁について

労働基準法には、「直接払いの原則」(24条)があります。
ここでは、賃金の支払い方法について、「[通貨で][直接労働者に][全額]を払わなければならない」と規定されています。
※銀行振込は、労働者の過半数代表もしくは労働組合と労使協定を結べば可能です。
※[全額]とありますが、全く控除をしてはならないということではありません。健康保険料などの法定福利費の控除は認められており、その他の控除は上記と同様に労使協定を結べば控除可能です。(24協定)

この労働基準法がある限り、給与デジタル払いは施行できないのが現状です。

しかし、2022年9月22日のパブリックコメントに「労働基準法施行規則」の改正に関する省令案が公示されました。

現行では、労働者に対する賃金の支払い方は、労働基準法施行規則の第7条の2の第1項において、「労働者が指定する銀行・その他の金融機関への振り込み」に限定されています。

そこで、当省令案では、「金融商品取引業者による振り込み」を盛り込むことにより、給与デジタル払いを可能にすることを目的としています。

皆様の意見を反映させ、法律の壁を超える時がすぐそこまで来ています。

https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000241741

国としての狙い

日本が給与デジタル払いを進めるにあたり、以下2点の狙いがあります。

日本のデジタル化を推進させるため

日本は技術発展によりデジタル化が進んでいるように感じますが、世界から見ると遅れをとっています。国際競争に負けないためにも、デジタル化は日本の成長戦略の大きな課題となっており、2020年7月17日には内閣府から「成長戦略フォローアップ」の中に、2025年6月までにキャッシュレス決済による決済比率を4割程度まで向上させることを目指すという目標を掲げています。

(「成長戦略フォローアップ」:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/fu2020.pdf)

外国人労働者が働きやすい社会を目指すため

日本の多くの企業は、給与を「銀行振込」で支払っていますが、銀行振込を行うには、そもそも銀行口座を開設しなければいけません。しかし銀行口座の開設は、印鑑や本人確認の書類などが必要となるうえ、窓口では日本語での対応となり、書類も日本語で記入しなければいけません。このように外国人労働者にとって、日本で銀行口座を開設することはハードルが高いのが現状です。

そうした観点から「給与デジタル払い」は、審査を必要としない資金移動業者が発行する給与振り込み用のプリペイドカード「ペイロールカード」の導入が予定され、外国人労働者であっても簡単に口座を持つことができるようになり、外国人労働者が働きやすい環境の推進につながります。

デジタル給与払いのメリット・デメリット

ここでは、企業にとってのメリット・デメリット、従業員にとってのメリット・デメリットをそれぞれ列挙します。

 メリットデメリット
企業・振込が電子化されるため、作業効率向上が見込めます。
・振込が電子化されるため、日払いや週払いの少額の入金がしやすくなります。
・デジタル払いだと、手数料が削減でき、無料となる場合もあります。
・銀行口座の開設が難しい外国人労働者にも給与支払いが可能となります。
・従業員への周知、支払方法の変更、就業規則の改正、同意書の準備など、導入に伴う変更に時間を要します。
・支払いの運用を銀行振込と給与デジタル払いの二重で行う必要があります。
・指定した資金移動業者が破綻した場合の責任対応を求められる可能性があります。
・セキュリティの不備等が原因となる不正送金の可能性があり、情報漏洩のリスクが発生します。
従業員・賃金の一部のみ給与デジタル払いとして受取可能なため、ATMや現金を介すことなく、スマートフォン等で即時に支払われた賃金の利用が可能です。
・銀行を完全貯蓄用とし、給与デジタル払いを受けた口座を決済用にするなど、分別できます。
・ATM利用料などで発生していた手数料を抑えることができます。
・今までコード決済や電子マネーのチャージのために持ち歩いていたキャッシュカードや現金が不要となるので、盗難・紛失リスクの低下することが考えられ、利便性の向上に繋がります。
・給与デジタル払いで受け取った賃金を、オンラインでそのまま家族などに送金できます。  
・セキュリティ対策が懸念され、情報漏洩の危険性があります。 ・買い物には電子マネーで十分ですが、家賃や水道光熱費などの公共料金の引き落としには、銀行口座のみしか対応していない企業が多くあるため、全額を給与デジタル払いでもらう必要を感じない人が多いと予想されます。
・不正利用時や資金移動業者が経営破綻した際の補償内容について未確定な部分があります。
100万円以内という上限があるため、賞与等の高額支払いが発生した際は、満額受け取れない場合があります。

今後の展望

給与デジタル払いには様々な課題や意見がありますが、多様な働き方が増えている中、選択肢が広がることで、利便性が増す人がいる事もまた事実です。普段キャッシュレス決済を利用しない方は従来通りの方法で給与を受け取ることができ、利用する方はデジタル払いで受け取り、手間と時間を削減できる。このような制度に落ち着くのではないでしょうか。

給与がデジタルマネーと直結し、より使いやすくなることで、労働者側にも企業側にもメリットがあります。また、給与デジタル払いを利用したサービスや連携をする企業なども今後は増えていくでしょう。給与の受取や入金、海外送金を誰もがより自由に、より簡単に行えるようになります。

国際的にも一般化している給与デジタル払い。まだ確定していない部分も多いですが、様々な課題を乗り越え、より豊かでより便利な日本となることを期待しています。

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