最近、収入の確保やスキル向上などを理由にダブルワークを希望する方が増えています。
そんな中、2022年1月、雇用保険法の改正により、マルチジョブホルダー制度が始まりました。
そこで今回は、マルチジョブホルダー制度について、人事担当者が押さえておくべきポイントをわかりやすく解説したいと思います。
雇用保険のマルチジョブホルダー制度とは?
基本的に雇用保険は、複数の事業所で働いていたとしても、1つの事業所のみで加入する仕組みになっています。
そのため、雇用保険の加入条件である「週20時間以上の就労」は、就業している事業所のみで満たす必要があります。
つまり、複数の事業所に雇用され、合計「週20時間以上」働いていても、雇用保険に加入できないということがありました。
しかし2021年に成立した雇用保険法改正によって、2022年1月から、65歳以上の労働者に限って、2つ以上の雇用保険適用事業所での労働時間が「合計20時間以上」であれば、雇用保険に加入することができるようになりました。
これを「マルチジョブホルダー制度」と呼びます。
雇用保険マルチジョブホルダー制度の背景
雇用保険マルチジョブホルダー制度の背景には、急速な少子高齢化があります。
現在の日本は、出生率の低下や高齢化社会の進展によって、労働力不足が深刻な課題となっています。
他方で、日本の多くの高齢者は、健康で働く意欲を持っているにもかかわらず、適切な労働環境や支援が不足していたため、活躍の場が限られていました。
このような状況を改善するため、政府は雇用保険マルチジョブホルダー制度を導入しました。
この制度は、高齢者が複数の職場で働きながら、雇用保険に加入できる仕組みです。
これにより、高齢者が柔軟な働き方を実現し、自身の能力を最大限に活かすことができます。
雇用保険マルチジョブホルダー制度によって、高齢者の雇用促進や労働環境の改善が図られ、労働力不足の緩和に寄与することが期待されています。
マルチジョブホルダーの要件
マルチジョブホルダー制度の要件は以下の通りです。
(適用される被保険者を「マルチ高年齢被保険者」と呼びます)
- 複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること
- 2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 2つの事業所のそれぞれの雇⽤⾒込み期間が31日以上であること
新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、収入の確保や仕事のスキル向上を目的に、ダブルワーカーが増えています。
今回はまず65歳以上の高齢者を対象とすることで、法改正の効果を検証する狙いがあるとされています。
給付の内容と手続き
マルチ高年齢被保険者が失業した場合、失業等給付として「高年齢求職者給付金」を受給することができます。
2社のうち1社のみ失業した場合であっても、受け取ることが可能になります。
また、条件を満たせば、育児休業給付・介護休業給付・教育訓練給付等の受給も可能です。
但し、育児休業給付・介護休業給付は、適用を受ける2つの事業所で同時に休業する場合に対象となります。
通常の雇用保険手続きは会社が⾏いますが、マルチジョブホルダー制度は、原則としてマルチ⾼年齢被保険者としての適用を希望する本人が手続きを行います。
手続きに必要な証明については、本人が事業主に記載を依頼して、「マルチ雇入届」など必要な書類を揃えて、ハローワークに届出ます。
会社としては、労働者から取得の申出があった場合、拒むことはできません。
また取得の申出をしたことを理由に、解雇その他不利益な取扱いをすることも禁じられています。
任意の資格喪失はできない点に注意しましょう
注意したいのは、任意で資格喪失をすることができないという点です。
マルチ高齢被保険者となった者について任意脱退は認められておらず、通常の資格取得要件を満たさなくなった場合のみ可能です。
実務上、企業が取得の申出を受けることはさほど多くはないと思いますが、マルチジョブホルダー制度の利用を拒否することはできません。
いざ申出があった場合には慌てず、しっかり対応しましょう。
まとめ
雇用保険のマルチジョブホルダー制度とは、複数の事業所で働く65歳以上の労働者が、一定の要件を満たす場合、特例的に雇用保険被保険者になることができる制度のことをいいます。
この制度は、少子高齢化による労働力不足を補うため、高齢者により働きやすい労働環境を提供することを目的としています。
ただし、雇用保険のマルチジョブホルダー制度は、任意で資格喪失をすることができないという点に注意が必要です。
もし、雇用保険のマルチジョブホルダー制度をはじめとして、労働保険や社会保険の手続きについて、お困りでしたら、ぜひSATO社会保険労務士法人までご相談ください。
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