厚生労働省は、2023年1月18日に諮問機関である労働政策審議会(障害者雇用分科会)において、改正政令案などを示され了承されました。
以下では、現在の法定雇用率と引上げられた場合の法定雇用率について、解説していきます。
現在の企業に義務付けられている障がい者の法定雇用率
2023年2月現在、民間企業における法定雇用率は2.3%です。
企業で従業員を43.5人以上雇用している場合、原則1人以上障がい者を雇用する必要がある計算になります。
この制度は義務であるため、雇用義務を履行しない事業主には、行政指導が入る可能性があるため注意が必要です。
段階的に引き上げ3年後に2.7%!
障がい者の法定雇用率引き上げは下記の通りのスケジュールとなります。
2023年度 | 現在の2.3%で据え置き |
2024年度~ | 2.5% |
2026年7月~ | 2.7% |
法定雇用率引き上げで「障がい者の雇用義務」が発生する企業の範囲が拡大
現在は労働者43.5人以上を雇用する企業が対象となっていますが、法定雇用率の引き上げに伴い、障がい者の雇用義務が発生する企業範囲が拡大します。
【現在】
43人*2.3%=0.989人⇒1名未満なので障がい者雇用の義務はない
44人*2.3%=1.012人⇒障がい者雇用の義務が発生
【今後】
法定雇用率が2.5%に上がった場合→労働者40人以上の企業
法定雇用率が2.7%に上がった場合→労働者37.5人以上の企業
法定雇用率が2.6%の国および地方公共団体や2.5%の教育委員会も、段階的に0.4ポイント引き上げる予定です。
段階的な引上げに係る対応は民間企業と同様となります。
障害者雇用調整金について
常時雇用労働者の総数が100人を超える企業で、法定雇用率を超えて障がい者を雇用している場合、「障害者雇用調整金」が支給されます。
今までは障がい者数に応じて1人につき月額27,000円の支給でしたが、2023年度は月額29,000円になる見込みです。
ただし、2024年度より支給対象人数が10人を超える場合には、当該超過人数分への支給額を 23,000円とする案が示されています。
同じく常時雇用している労働者数が100人以下の企業で、一定数を超えて障がい者を雇用している場合に支給されている報奨金については、超えて雇用している障がい者数に応じて1人につき月額21,000円の支給でしたが、2024年度からは支給対象人数が35人を超える場合には、当該超過人数分への支給額は16,000円と示されています。
また、常時雇用労働者の総数が100人を超える企業で障がい者雇用率を未達成の場合には、法定雇用障がい者数に不足する障がい者数に応じて、1人につき月額50,000万円を納付する障害者雇用納付金について変更案は示されておりません。
続く2月2日開催の審議会においては、企業の障がい者雇用を促進させるべく新たな助成金制度の創設も示されています。
新設助成金の設定及び既存助成金の拡充について(案)
障害者雇用相談援助助成金(仮称)
内容
障がい者の新たな雇入れや雇用の継続が図られるよう、中小企業等に対して必要な一連の雇用管理に関する相談援助の事業を行う者への助成を実施。
支給額
(1)対象障がい者の雇入れ及びその雇用の継続を図るための措置を実施した場合は60万円(中小企業事業主又は除外率設定業種の事業主にあっては80万)
(2)対象障がい者の雇入れ及びその雇用の継続を行った場合には、(1)の助成額に、一人当たり7.5万円(中小企業事業主又は除外率設定業種の事業主にあっては10万円)を上乗せ支給(ただし、4人までを上限とする)
支給回数
1事業主につき1回
中高年齢等障害者職場適応助成金(仮称)
内容
加齢により職場への適応が困難となった障がい者の雇用継続が図られるよう、事業主が行う以下の措置への助成を実施
(1)職務の転換のための能力開発
(2)業務の遂行に必要な者の配置又は委嘱
(3)業務の遂行に必要な施設の設置等
支給額
職務の転換のための能力開発
中小企業主等以外の事業主 助成率3/4 上限額(年額・一人当たり)20万円
中小企業主又は多数雇用事業主 助成率3/4 上限額(年額・一人当たり)30万円
支給回数
職務の転換のための能力開発
最大1年間(支給後、5年間は支給しない)
※業務遂行支援者の配置又は委嘱、施設又は設備の設置又は整備の実施に対しての支給額及び支給回数については別に定められています。
政府、厚生労働省は今後も障がい者が働きやすい社会の実現とそれに向けた法制度の整備を行う予定としています。
参照元:厚生労働省
(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-rousei_126985.html)
まとめ
今回の厚生労働省の発表により、障がい者の法定雇用率の段階的な引き上げはほぼ確実なものとなりました。
また、既に雇用されている障がい者の高齢化も進んでいることや求職者数は減少傾向となる一方、精神障がいや若年層の発達障がい者は今後も増加すると思われます。
労働市場の中心となる精神・発達障がい者の採用、雇入れを一層進めていくことが求められますので、企業側は中長期的な戦略をもった計画・働き方の方法を考えていくことが必要となってくるでしょう。
- 障がい者の雇用に向けたに組織的・継続的な取組みを話し合う会議を定期的に開催し、課題の情報共有、解決策の検討を行う
- 実習やインターン制度を創設し「求める要件を満たしているか」「募集職種で業務を達成できるだけの適性があるか」「社風に人物像が合うか」などを確認する
- 定期的な通院を必要とする精神障がい者が安定・安心して就労できるよう、通院時に利用できる新たな休暇制度を創設する
- 通勤などの課題がある場合はテレワーク勤務を可能にするなど、勤務場所や業務内容を柔軟に変更することができる制度作りを行う
- 障がい者のモチベーションの向上とスキルアップにつなげるため、客観的な数字や指標を用いた目標管理を行うとともに、能力に応じたキャリアパス制度を創設する。
まずは障がい者雇用に対して企業風土を醸成し、上記のような具体的な取り組みを実施することにより、採用と継続的な雇用の達成を目指しましょう。
※本稿の内容は2023年2月2日現在のものであり、省令などで今後定められる内容を含んでいるため、政府、厚生労働省の方針等により変更となる場合があります。
また、本稿においての漢字表記は厚生労働省等の資料に準じております。