二以上事業所勤務者の取り扱い・届出・手続き

副業に関する社会的許容の流れ、2022年10月の短時間労働者の適用拡大等に伴い、今後複数の事業所に勤務する従業員が増加することが想定されます。

複数の事業所に勤務する従業員の場合は、雇用保険と健康保険・厚生年金では手続きが相違していますので、今一度整理したいと思います。

目次

雇用保険の場合

まず雇用保険は、生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける事業所のみで加入しますので、二つ以上の事業所で加入することは制度的にあり得ません。

主たる賃金を受ける事業所1カ所だけで加入となり、雇用保険料も主たる事業所から支払われる賃金からのみ控除されます。

主ではない事業所から支給される賃金から雇用保険料は控除されません。

健康保険・厚生年金の二以上事業所勤務者が行う届出

健康保険・厚生年金の場合は複数の事業所に勤務する場合はそれぞれの事業所で加入し、主たる事業所を選択する必要があります。

主たる事業所を選択事業所といい、それ以外の事業所を非選択事業所といいます。

健康保険・厚生年金の二以上事業所勤務者

二以上事業所勤務の事実が発生した場合、制度的には10日以内に「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を従業員本人(被保険者)が、健康保険、厚生年金それぞれの管轄行政機関に提出する必要があります。 

実務的には「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を、選択事業所を経由して、選択事業所が加入する健康保険組合と管轄の年金事務所(以下「年金事務所」には広域事務センターを含む)に提出します。

届出の結果、選択した事業所が所属している健康保険組合または選択した事業所の管轄の年金事務所が、当該従業員(被保険者)に関する事務を行うことになります。

実務上の注意点は次の2点です。

  • 非選択事業所を経由しても制度的には提出は可能ですが、提出先が選択事業所の所属する健康保険組合と選択事業所の管轄の年金事務所ですので、実務的には選択事業所を経由して提出します。
  • 選択事業所の健康保険が協会けんぽの場合は、協会けんぽの取得、喪失等のいわゆる適用事務は日本年金機構が行っておりますので、管轄の年金事業所に健康保険、厚生年金保険あわせて1部のみ提出します。

二以上事業所勤務の社会保険の基本的な手続き

資格取得

二以上事業所勤務に該当するにはさまざまなケースがあります。

それぞれのケースについて、手続きを解説します。

(1)同日に2ヶ所以上の事業所に勤務することにより、二以上事業所勤務者に該当

  • 選択事業所(従来の所属事業所)
    健康保険:「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」、「健康保険被保険者証」(二以上勤務者になるとともに番号がかわるため差し替えが必要)を所属する健康保険組合又は管轄の年金事務所(協会けんぽの場合)に提出
    厚生年金保険:「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を管轄の年金事務所に提出
  • 非選択事業所(新たな事業所)
    健康保険:「資格取得届」を選択事業所の所属の健康保険組合又は選択事業所管轄の年金事務所(協会けんぽの場合)に提出
    厚生年金保険:「資格取得届」を選択事業所管轄の年金事務所に提出

(注)健康保険被保険者証は選択事業所の所属健康保険組合又は協会けんぽで発行されます。非選択事業所所属の健康保険組合では発行されません。(下記(2)、(3)も同様)

同日に2ヶ所以上の事業所に勤務することにより、二以上事業所勤務者に該当した場合

※二以上事業場勤務する従業員は、非選択事業所に「選択事業所が加入する健保組合・管轄年金事務所を通知」する必要があります。)
上の図のとおり、b事業場はA健保組合に取得届を提出することになります。

(2)所属の従業員が新たに別の事業所で資格取得することにより、二以上事業所勤務者に該当。従来の所属会社を選択事業所として選択

  • 選択事業所(従来の所属事業所)
    健康保険:「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」、「健康保険被保険者証」(二以上勤務者になるとともに番号がかわるため差し替えが必要)を所属する健康保険組合又は管轄の年金事務所(協会けんぽの場合)に提出
    厚生年金保険:「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を管轄の年金事務所に提出
  • 非選択事業所(新たな事業所)
    健康保険:「資格取得届」を選択事業所の所属の健康保険組合又は選択事業所管轄の年金事務所(協会けんぽの場合)に提出
    厚生年金保険:「資格取得届」を選択事業所管轄の年金事務所に提出
所属の従業員が新たに別の事業所で資格取得することにより、二以上事業所勤務者に該当。従来の所属会社を選択事業所として選択した場合

(3)所属の従業員が新たに別の事業所で資格取得することにより、二以上事業所勤務者に該当。新たに加入した事業所を選択事業所として選択

  • 選択事業所(新たな事業所)
    健康保険:「資格取得届」、「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を所属する健康保険組合又は管轄の年金事務所(協会けんぽの場合)に提出
    厚生年金保険:「資格取得届」、「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を管轄の年金事務所に提出。
  • 非選択事業所(従来の所属事業所)
    健康保険:従来の健康保険被保険者証は使用できなくなるので回収が必要
    厚生年金保険:提出物なし
所属の従業員が新たに別の事業所で資格取得することにより、二以上事業所勤務者に該当。新たに加入した事業所を選択事業所として選択した場合

標準報酬月額と保険料について

「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」に記載された各事業所の報酬額を合算して標準報酬月額が決定されます。

その合算して決定された標準報酬月額を、各事業所の報酬額に応じて按分して、各事業所が納入する保険料が決定されます。

「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出すると、健康保険組合と年金事務所から「二以上事業所勤務被保険者標準報酬決定通知書」が全ての事業所に送付されます。

「二以上事業所勤務被保険者標準報酬決定通知書」には保険料が記載されていますので、その保険料に基づいて給与より控除してください。

「二以上事業所勤務被保険者標準報酬決定通知書」は「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」提出後、健康保険組合、年金事務所から送付されるまで時間がかかる場合もありますので、初月の給与計算の締め切りに間に合わないケースもあります。

従業員には事前に保険料の調整が発生する場合もあることは伝えておいた方がよいでしょう。

その合算して決定された標準報酬月額を、各事業所の報酬額に応じて按分して、各事業所が納入する保険料が決定されます。

二以上事業所勤務者が発生して非選択事業所の場合、従来の健康保険組合、年金事務所以外の健康保険組合、年金事務所へ毎月保険料を納入する必要があります。

健康保険組合、年金事務所から納入告知書が届きますが、納入洩れが発生しないように、特に通常の保険料の納入を口座振替にしている場合には注意が必要です。

二以上事業所勤務者が発生して非選択事業所の場合、従来の健康保険組合、年金事務所以外の健康保険組合、年金事務所へ毎月保険料を納入する必要があります。

資格喪失

(1) 全ての加入事業所で資格喪失した場合

選択事業所も非選択事業所も選択事業所の所属する健康保険組合と管轄の年金事務所へ「資格喪失届」を提出

選択事業所も非選択事業所も選択事業所の所属する健康保険組合と管轄の年金事務所へ「資格喪失届」を提出

(2) 選択事業所を資格喪失した場合

  • 選択事業所:「資格喪失届」を選択事業所の所属する健康保険組合と選択事業所の管轄の年金事務所へ提出
  • 非選択事業所:提出物なし。ただし、被扶養者(異動)届をあらためて今まで非選択事業所の所属の健康保険組合又は管轄の年金事務所(協会けんぽ)に提出しなければならない場合あり

注① )加入していた選択事業所の所属の健康保険組合又は協会けんぽで発行された健康保険被保険者証は返却。あらたに今まで非選択事業所側だった健康保険組合又は協会けんぽに健康保険被保険証を発行してもらう必要あり。

選択事業所を資格喪失した場合

(3) 非選択事業所を資格喪失した場合

  • 選択事業所:提出物なし
  • 非選択事業所:「資格喪失届」を選択事業所の所属する健康保険組合と選択事業所の管轄の年金事務所へ提出
非選択事業所を資格喪失した場合

まとめ

今回は「取得」「保険料控除」「喪失」を中心に記載いたしました。

二以上事業所勤務者の社会保険手続きや社会保険料の控除については、今回記載以外にも例えば、「固定給に変動があり月額変更に該当した」「非選択事業場で賞与が支払われた」「40歳に到達し介護保険料が発生した」等、様々な事案が発生いたします。

今後、従業員の働き方が柔軟になるにともなって、会社や人事担当者が行わなければならない社会保険や労働保険の手続き業務はますます複雑になると考えられます。

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